可能性と後悔

わかりあえない僕たちは

お別れの日

‪近所のとてもとても好きだったカフェの最終営業日が今日で、お別れを言ってきた。
家から徒歩5分ほどのところにある、こじんまりとしたお店で、管理栄養士の資格を持っているという姉妹が切り盛りしていた。
家からカフェまでの最後の道のり。
会社でものすごく怒られて仕事の出来なさに落ち込んで、ふと柔らかい光と手書きの看板に惹かれて初めて入った日のことを思い出しながら、ゆっくり噛みしめるように向かった。

今日は普段の営業とは違っていて、店主の姉妹の地元の名物だという手ごね寿司とちょっとしたスイーツだけが並んでいて、それでも店は大盛況だった。
ぼくは手ごね寿司とクッキーをひとつずつだけテイクアウトでお願いし、店主のお二人と少しだけ言葉を交わした。
「とてもとても好きだった」と言ったのに恐縮なんだけれど、これまで特別言葉を交わしてきたわけじゃなかったから、いざ店に着いたら何を言えばいいのかわからなくなってしまって、「ありがとうございました」「ではまた」と、ほんとにこれっぽっちだけ言葉を交わした。

帰り道、「あー なんで『このお店のご飯がほんとに好きでした』とか『またいつか食べに行きたいです』とか伝えられなかったんだろう」なんて考えていたら悲しくなって、拳を握りしめ、うーーーーっと唸り声をあげてトボトボトボトボと歩いた。
完全に変質者になっていたと思う。
通報されなくて済んで幸運だった。

家に戻ってすぐ、手ごね寿司を一口食べてみた。
…おいしかった。
すごくおいしかった。
恥ずかしがらずに2つ買っちゃえばよかったなって思った。
閉店の最後の最後の日まで、きっちりおいしいご飯を食べさせてもらえて、なんだか悔しくて、すこしだけ声をあげて泣いた。