可能性と後悔

わかりあえない僕たちは

愛に関する断章

「何年か前にさ、『愛のむきだし』って映画あったじゃん? おれ、剥き出しじゃないと、愛じゃないと思うんだよね。」



愛はどんな形をしているのだろう。
まるいのだろうか。角ばっているのだろうか。ギザギザしているのだろうか。
それとも、人間のかたちをしているのだろうか。
人間のかたちをしている愛は、毎夜人が寝静まったころに歩き出しているのだろうか。君の愛が、君の代わりに、毎夜君の大事な人を抱きしめてくれているのだろうか。
人間のかたちをしている愛は、君にそっくりなのだろう。



海水浴をするハートの話、聞いたことある?
ぷかぷか、ぷかぷかと水に浮いて、ゆらゆら、ゆらゆらと水の流れに身を任せているらしいよ。
じゅうぶん海水浴をしたあとは、ご自慢の髭で岸まで泳ぎ、そしてみんなのからだの真ん中に戻ってくるんだって。
ぼくは思った。
海水浴したあとに、きちんとシャワーを浴びてくれなきゃ、ぼくの体に海水の塩が混ざってしまうじゃないか。

涙がしょっぱいのは、そういうわけなのだろう。



ぼくが君に対して抱いていた気持ちを、誰かが“愛”と名付けた。ぼくの知らない間に、ぼくの気持ちが規格化されていた。
君に抱いていたこの気持ちを、ぼくは愛と呼ばなければいけないのだろうか。
ぼくの気持ちは、もっともっと複雑で、美しくて、醜かったはずなのに。
いつのまにか小綺麗な瓶に詰められて、ラベルを貼られ、知らない街に出荷されていった。