横溝はため息をつきながらひとりがけソファに深々と腰掛けた。コーヒーを飲みながら向かいの席に座る彼女のことを見つめる。 2人は喫茶店にいる。 下北沢の南口を少しくだったところ、古着屋の2階にあるその店の窓際が2人の特等席だった。 彼女はガラス向こ…
あなたは言った。 「私があなたを恋愛対象として見れないのは変わらない。これからあなたが、私と会い続けるのか、それとも一生会わないことにするのか、それはあなたの決断の問題だから、私にはなにも言う権利はないよ」 あなたの言うことは正しい。 いつだ…
きみがいてくれてよかった。 ぼくの人生は、きみのおかげで救われた。 きみの寝顔。 きみの寝息。 きみの小さな肉球と簡単に取れてしまいそうな狼足。 きみの毛並み。 きみの湿った鼻。黒くてざらざらしていた。 きみのべろ。汗をかいたぼくの足をなめるのが…
「もしさ、女の子と飲んでいるときに『実は私、家でお手製糠床育てているの…』って囁かれたら、即好きになっちゃうよね」 なんとも恐ろしい話である。 この「上京したての18歳童貞男子大学生」のものと思しき発言は、1か月まえ飲みの席でぼく自身が発した言…
近所のとてもとても好きだったカフェの最終営業日が今日で、お別れを言ってきた。家から徒歩5分ほどのところにある、こじんまりとしたお店で、管理栄養士の資格を持っているという姉妹が切り盛りしていた。家からカフェまでの最後の道のり。会社でものすご…
山崎ナオコーラさんの『人のセックスを笑うな』を読みました。 映画を観て大好きな作品になって、それから原作を読んでみるまで2年もの月日が経ってしまった。 今思えば、2年という月日は長いようで短い。 2年もあればひどい失恋から立ち直って恋を始めるこ…
吉本隆明は愛を“対幻想”であるといった。 村上春樹は「完全な十全な愛というものはこの世界にはない。」と語った。 無名の人たちが今日も「愛とは…」というテーゼに対してひとつの答えを与えようともがいている。 半年ほどまえのことだ。 ぼくはそのアポリア…
突然、エッセイを書いてみようと思った。 そう思い立ったのにはひとつだけ理由がある。それは、「31歳になったころ、穂村弘ばりのおもしろエッセイを出版し、サブカル女子から大いにモテたい」という感情が抑えきれなくなったからである。 こんな理由で立て…
9月27日、品川の原美術館で開催中の篠山紀信展「快楽の館」に行ってきました。 正直、めちゃくちゃ下心アリで。 だから、もし真面目に話すような内容がなければ「壇蜜のヌードエロかったわ~」で終わりにしようかと思っていたんです。 が、そんな事前の期待…
ひとより少しだけ優しすぎた女の子の物語。今回もやっぱりフェチ全開の岩井監督。「映画に愛される未来の女優を探す」なるテーマのオーディションで黒木華を見出したらしいけど、これまでのミューズだった蒼井優にとても似ている…監督、好きなタイプわかりや…
会期が明日までだったので、本日は雨のなかいそいそと原宿アートギャラリーAMの森山大道展に行ってきました。 詳細はこちら(http://www.fashion-press.net/news/20303)ですね。 ところで、森山大道さんの写真を見たことないひとのためにざっくり(ぼくなり…
実は、ぼくは、皆さんが思っている32倍(当社調べ)くらい、 不器用で愚直で熱い男なんです。 知ってました? 知らなかったでしょ。 今日はそんな話を少しだけしようと思います。 興味ない人には今までで一番面白くない話かもしれません。 突然ですが、 これ…
「俺だって知りたくなかったよ」 かれこれ六本目になる煙草に手を伸ばしながら河野は言った。 「けど、大学から帰ったら俺のベッドでヤッてたんだぜ?信じられっかよあの女」 もうこの店に来てから二時間は経過している。見渡す限り仕事帰りのサラリーマンば…
「なんだってわかる 自分のこと以外なら」ぼくらは常に確固たる〈わたし〉を求めて足掻いている。でも、おそらく、そんなものは存在しない。だから、不安になるし、絶望するし、人を傷つける。ぼくらが〈わたし〉を措定するときには2種類の方法が考えられる…
今回は久々にちゃんとしたやつです。ちゃんとしたやつ、と言うからにはちゃんと書きたいので、珍しいことに目次とか作りました。0.そもそも1.K君の言い分2.ぼくの言い分3.似てるようで似てない話4.に、似てない!!5.最後にとなっております。最後までお付き…
忘れたいことも忘れたくないことも同じくらいたくさんあって。でもやっぱり、忘れたいことの方がちょっぴり多い気もする。ぼくはすごくわがままだから、みんなのことも綺麗さっぱり忘れてしまいたい!と思うんだけど、それでも、いざとなったら思い出せるよ…
今日は雨だった。昼前までは鈍い曇天で、まるで冬の天気のお手本のような空だったけれど、いずれにせよ持病の頭痛が悪化するからあまり好ましいものではない。神様にも不機嫌な日はあって、ぼくらみたいな地上に生きる人間はただ黙って彼の理不尽を甘受する…
「何年か前にさ、『愛のむきだし』って映画あったじゃん? おれ、剥き出しじゃないと、愛じゃないと思うんだよね。」愛はどんな形をしているのだろう。まるいのだろうか。角ばっているのだろうか。ギザギザしているのだろうか。それとも、人間のかたちをして…
みなさん、お元気ですか?お元気ですか?なんて訊かれても知らねえよって思う方が大半だと思いますが、まあせっかくだからご容赦ください。ぼくの方はですね、まあ元気ではないですけど、生きてます。生きてます。それで充分ですよね。元気に生きてる人の方…
今回は久々にブログらしい文章を書こうと思ってます。というのも、武蔵美の芸術祭に行って思ったことを少しまとめとかないとな〜っと思ったからです。ムサヴィランズとか武蔵美美少女図鑑だけ目当てで行ったわけじゃないんですよ!ってアピールもしとこうか…
10月10日午前3時、あなたはいかがお過ごしですか?ちゃんとご飯は食べましたか?ちゃんと歯磨きしましたか?ちゃんと愛する人に愛してるって伝えましたか?2014年10月10日の午前3時はもう2度と来ないことをあなたは知っていますか?悔いのないように生きまし…
「死にたい」を言うことの出来ない世界でぼくは生きている。うっかり「死にたい」を口に出そうものなら、すぐに“生きなさい警察”が飛んできて、更生施設に連れて行かれる。“生きなさい警察”は常に目を光らせているのだ。更生施設ではアフリカの貧しい子供た…
おれの言葉は常に懺悔でしかない。そして、この「懺悔でしかない」という言葉も発せられた瞬間からただの醜い自己弁護に変容する。何層も積み重なった入れ子状の自己嫌悪でおれの言葉は作り出されている。おれはいつだって汚い。姑息だ。卑怯だ。こんな内面…
せめてハタチになる前にきみを愛して死にたいせめてハタチになる前に何も成し遂げられなかった男として死にたいせめてハタチになる前に本当の蜜の味を知って死にたいきみを愛していないとか、そんなことはこれっぽっちもなくて。けれどもおれは、この世界で…
恋がそっと入って来られるように恋が黙って出て行けるようにドアを開けて寝よう。
先日、小学校の同窓会があった。同窓会と言っても、当時仲の良かった8人程度にしか声のかかってない小規模なものだ。それでも、久々の"同窓会"という甘美な響きに若干の期待を抱きながら、ぼくは待ち合わせ場所に向かった。待ち合わせ時間の30分前、「ちょっ…
窓際の席でぼくは、夏の強い日差しを背に受けながら、一向に埋まる気配のない原稿用紙を絶望的な気分で眺めていた。9歳のときの話だ。「好きなものについて書きなさい」先生がそう言った途端、周りのみんなの硬質で不安そうな視線はふっと緩んだ。けど、僕は…